昌慶宮大温室

ソウルにある王宮の1つである昌慶宮(チャンギョングン)は、最寄りの駅は地下鉄3号線安国(アングッ)で、20分ほど歩きます。この王宮から大学路(テハンノ)方面へと向かう通りはいつも混雑しており、王宮関連の復元工事でやかましいエリア。けれどもひとたび中に入ると、その静けさと荘厳な雰囲気にソウル市内にいることを忘れてしまうほど。
昌慶宮は1909年に「宮」から「苑」に格下げされ、時の皇帝純宗をなぐさめるためにという名目で動・植物園が作られ、終戦後も遊園地があったという歴史を持っています。今回は、宮内に残る1909年に完成した大温室を紹介します。大温室は昌慶宮の北側、春塘池の東側にあります。木材、鉄材、ガラスで造られた韓国初の西洋式温室で、登録文化財にも指定されています。

 

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設計は宮内省で長く宮廷園芸技師だった福羽逸人(ふくば はやと、1856~1921年)が関与し、施工はフランスの会社が担当しました。当時ガラスや鉄は珍しい素材だったので、全て輸入したそうです。福羽逸人は日本の近代式庭園文化に貢献した人物で、新宿御苑をはじめとする宮内庁管轄の庭園の整備や設計を担当していました。 新宿御苑の紹介ページに“当時の温室”(写真右)という写真があるのですが、これが昌慶宮大温室と大変よく似ています。左の写真は完工当時の昌慶宮大温室。

 

 

 

御苑の温室は焼失してなくなり、韓国には文化財として王宮の中に残されているというのはいやはや運命ですね。ちなみにドーム型の植物園もありましたが(左写真後方)、現在は撤去されています。

世界の珍しい植物を集めて展示する温室は、イギリスをはじめとするヨーロッパで発達しました。つまり温室はヨーロッパをお手本にした近代の象徴でもあり、韓国での植物学や園芸学が発達するスタート地点でもありました。
白く塗られた鉄と木が作り出す幾何学美は、周りの自然美と対立しているようでうまく調和しています。また、直線と曲線でリズミカルに表現された枠のおかげで、建物全体が軽やかに見えます。

 

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入口前には重厚な石造りの噴水台があり、この台を軸にしたかのように完璧なシンメトリーで温室が建てられています。造りこまれた人工的な植栽もフランス式庭園の特徴をよく表しています。

 

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中には韓国に自生する蘭をはじめ、約760種の植物があります。残念なのは床部分。一軒家の浴室にしいてあるようなタイルで、もう少し気を遣って欲しかったですね。

 

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太陽の光を最大限に取り込むための工夫や装置が目を引きます。

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南側の出入り口にあるフランス式の扉にあるのは、すももの花模様。これは大韓帝国の皇室のシンボルです。

 

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屋根の上にも並んでいるすももの花。

 

 

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温室の定礎石には檀紀4242年(1909年)とあります。

 

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風格漂う木造建築が並ぶ中に、ガラスと鉄でできた近代があらわれる。当時の驚き、怒り、落胆などはきっと計り知れないものだったに違いありません。けれども約100年の月日が流れ、ガラスの建物は存在そのものが歴史的な価値を持つ近代建築遺産となりました。当時作られた窓の開閉装置の半分以上が現役で使えるとのことです。
昌慶宮に植えられた桜が消え、宮内にあった洋館が撤去されましたが、この大温室が残された意味を実際建物の前に立って眺めたらわかるかもしれません。

 

追記
メディアアーチストのムン・ギョンウォンが去年ギャラリー現代で、温室をモチーフにした個人展を開きました。
作品のうち、「グリーンハウス1,1909」というインスタレーションは昌慶宮大温室をモチーフにしています。写真はこちらのブログ
今朝テレビを見ていたら、彼女がパートナーのチョン・ジュノと共に今年の作家賞を受賞したというニュースが流れて来ました。国立現代美術館で今月11日まで受賞作家展が行われているそうです。

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2 Comments
  1. 昔子供のころ新宿御苑で見た温室はこんなにステキじゃなかったっけ。すももの花が大韓帝国のシンボルだったのですね。この温室が残っていてくれてよかった。。。このままずっと残っていますように。

    • >ありりんさん
      ありりさんがご覧になった御苑の温室は、リニューアルされた温室でしょうか?昔の温室、気になります(笑)
      私もこの花がすももで、大韓帝国のシンボルと今回調べて初めて知りました!

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